成人T細胞白血病に知らずに感染していた母親の授乳によって子どもが50年後に発症しても、私たちは年老いてしまい何も助けてあげられないかもしれません。
2020/12/24
朝日新聞に、母親から母乳を介して赤ちゃんに感染するウイルス性白血病の記事があります。成人T細胞白血病について厚生労働省の研究班が20年振りに調査した結果だそうです。
母乳は何にも代えがたい赤ちゃんの栄養源です。その母乳から赤ちゃんに成人T細胞白血病のウイルスが感染してしまうことを予防するために、私たちはどんなことに気を付ければよいのでしょうか。
記事によると、成人T細胞白血病(ATL)のウイルスは母乳や精液を介して感染して、生きている間に発症する確率は約5%だそうです。約5%と聞くと、確率的には低いのですが問題は完全な治療が困難だという点です。ですから発症する確率は低いものの、発症してしまった場合の治療法が現在は未解明なのです。
感染経路は母乳、胎盤、産道。また性交でも感染しますが大人になってから感染して発症する例は少ないそうです。たとえ成人後に感染しても発症するのは老年期になるので、発症しない確率も高いわけです。最も発症例が上がっているのは授乳で感染して、成人後に発症する例です。
発症は日本では西日本を中心に、特に九州に多いと言われていましたが、最近は関東でも増加傾向にあるそうです。北海道でも発症しています。その為、これからもっと成人T細胞白血病が全国的に広まっていく恐れもあるのです。
成人T細胞白血病の発症は感染してから40~60年先だと考えられるそうです。ですから赤ちゃんが母乳を飲んで感染しても、すぐには気付きません。ですから若くして発症することが少なく、ある程度の年齢に達してから発症するので、患者の体力面も低くなりがちです。
最近では、前宮城県知事の浅野史郎さんが成人T細胞白血病が原因で2009年に緊急入院しています。浅野さんは発症時61歳でした。60歳前後の発症は多く、体力の低下や抵抗力に問題が出てくる心配があります。
成人T細胞白血病の原因となる成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)は、抗がん剤がきかなくなったり、急に効果が出なくなることが報告されています。気が付いて治療をしても必ず効果が得られるわけではないのです。そう考えると母親である私たちが、気を付けてあげることが最も有効な予防になると考えられます。
母親の成人T細胞白血病の感染の確率が高い場合は、母乳をやめて人工乳を与えます。産後の母乳は赤ちゃんへの栄養が沢山含まれていますが、感染している場合は人工乳に変えることが最も効果的だと言われています。
診断する医師によって多少の指導差はありますが、4ヶ月以上の授乳は赤ちゃんへの感染確率が高くなるので危険だと考えられています。
成人T細胞白血病を予防するためには、授乳する前に母体に異常がないか血液検査して確認することです。九州など以前から感染率の高い地域では妊娠中や授乳中の検査も広く知られています。しかし、関東や患者の少ない地域では、まだ血液検査の重要性が知られていないのが実情です。
もしも母乳育児で子どもを育てていきたい場合は、子どもの50年先の発症を未然に防ぐためにも、母親の血液検査をしてから母乳を与えます。ただ現在は、成人T細胞白血病の血液検査の公費負担は認められていません。
例えば、成人T細胞白血病に知らずに感染していた母親の授乳によって子どもが50年後に発症しても、私たちは年老いてしまい何も助けてあげられないかもしれません。これから先、確実な根絶法が見つかるかどうかも分からない状況です。
そう考えると、赤ちゃんに授乳する前に母親である私たちが血液検査を受けることが、とても意味のあるものだと思えます。2010年4月、北九州市では、妊婦の成人T細胞白血病の血液検査の助成を検討すると表明しました。実は自治体が成人T細胞白血病の助成検討を表明したのは、これが初めてだそうです。
これから授乳を考えている全ての母親に、成人T細胞白血病を公的に検査できる機会が与えられることを切に願います。それが、多くの子どもたちの成人T細胞白血病発症を未然に防ぐ方法なのです。