「あかちゃん社長がやってきた」は、赤ちゃんという人物を客観的に見たらどうなるかと、大人も思わず笑みがこぼれてしまう絵本です。
2020/12/19
「あかちゃん社長がやってきた」は、2012年9月に講談社の翻訳絵本として発売された、マーラ・フレイジ-さんの絵本です。
マーラ・フレイジ-さんはカリフォルニア州在住の絵本作家です。聞き慣れないかもしれませんが、アメリカ図書館協会の下部組織の児童図書館協会という団体が、毎年アメリカ合衆国でその年に出版されたもっとも優れた子ども向け絵本に、コールデコット賞を授与しています。1938年から毎年授与が続いている、伝統のある賞の1つです。
そのコールデコット賞は1冊しか選ばれませんが、その次点に選ばれた絵本にはオナー賞が授与されます。マーラ・フレイジ-さんは、2010年にイラストを担当した「この世界いっぱい」で、オナー賞を授与されています。
彼女の描くイラストは時代に関係のない赤ちゃんや子どもの柔らかい表情が魅力的です。どのイラストも、赤ちゃんの魅力をしっかり表現しています。
「あかちゃん社長がやってきた」では、赤ちゃんが社長になってしまうことも納得の、ちょっと偉そうな赤ちゃんがよく描かれています。
赤ちゃんという人物を客観的に見たらどうなるか・・こんな見方もあるのかと、大人も思わず笑みがこぼれてしまう絵本です。
「あかちゃん社長がやってきた」は、朝から晩まで赤ちゃんに振り回される毎日が描かれています。
けっして赤ちゃんがわがままなのではありません。赤ちゃんに振り回される理由は、飲み物が欲しかったり、とってもありふれた要求です。
でも、赤ちゃんの要求は毎日、時間を問わず続きます。この絵本では、そんな要求ばかりでいる赤ちゃんを自己主張ばかりの偉そうな社長と被せています。
産まれた途端に、赤ちゃんは社長として、社員であるパパとママを毎日こき使うのです。赤ちゃんに振り回される毎日を、反抗できない両親。これが社長に反抗できない忠実な社員と表現されています。
赤ちゃんの要求はわがままじゃなくて、社長から社員に出される指示なのです。だから社員(パパとママのこと)は任務を遂行しなければならないというわけです。
赤ちゃんは本当に毎日、時間を問わずに要求ばかりです。普通ならみんな眠るであろう時間帯でも、気を遣わない要求があります。
でも「あかちゃんは社長」だと言われたら・・全て納得してしまいます。だから偉そうなのです。だから要求ばかりなのです。
絵本では、そんな赤ちゃんに対して、ついにパパとママが要求を聞かない事態になってしまいます。その結果は是非読んでほしいです。
「あかちゃん社長がやってきた」は、育児のダークな部分を笑いに変えてしまう不思議な絵本だと思いました。
そして何より、イラストの赤ちゃんがとっても偉そうです。絵本を選ぶ時に、イラストで選ぶことは多々ありますが、こんなに偉そうにしている赤ちゃんも珍しいものです。
でも文章を読んでみると、偉そうなのに可愛くて隙がいっぱい。憎めない様子がよくわかります。きっと、どの家庭でも見方を変えたら、赤ちゃんはこんなふうに見えるのだと思います。
ただただ、赤ちゃんのわがままが連なるのに、なぜか読んだ後は赤ちゃんが可愛くて、「もっと要求していいよ!」と思ってしまいます。
まさに今、こんな毎日を当たり前のように続けているママには、是非読んでほしい絵本です。育児に余裕が出るまで待たずに、育児に疲れている時こそ読んでください。
赤ちゃん優先が当たり前だとわかっていても、本当は大変なことです。だから時々疲れて、ママである自分が赤ちゃんのお世話のために存在しているかのように思ってしまいます。
赤ちゃんを責めるわけではないけれど、こんなふうに赤ちゃんに振り回されるばかりの毎日に、何か納得のいく答えがあったらいいのにと思うこともあるかもしれません。その答えは、この絵本のキメ台詞にあるかもしれません。赤ちゃんよりもママにおすすめの絵本です。
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